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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

一三 たいとさけ

どうして布施さんの口からそんな古い歌の節が出てきたかと言いますに、君の家がらはこの地方の郷士として代々仙台侯に仕えてきた歴史があるからでした。あの「さんさしぐれ」の歌は、甲高い女の声よりも、むしろ低いところを歌える男の声に適していて、ゆっくり歌うべきものだそうです。あれをわたしに歌って聞かせる間、しばらく布施さんは「時」というものも忘れているようでした。いかにもゆったりと迫らないでしかも深く聞える古風な歌に耳を傾けていますと、その抑揚のある節の一つ一つが実に長くつづいて行きました。切れたかと思うと、まだ続いているようなものでした。

それもそのはずです。あれはただの俗謡でもなくて、古い歴史のある朝鮮征伐のおりの凱旋の曲だと聞きます。おそらく、昔の仙台武士は軍の旅から帰って来て、たがいに祝いの酒をくみかわし、手拍子でも打ちながら、心ゆくばかりあの歌を合唱したものでありましたろう。陣中の着物も解き、重い刀もわきに置いて、ふたたび妻子に迎えられた時のよろこびは、いくら歌っても歌いつくせないようなものでありましたろう。

一三 たいとさけ

たいとさけがそろって出かけるところでした。