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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

七 不似合いなもの

ちょうど数衛は家にいる時で、わたしが遊びに行きましたら、よく来てくれたと言って、たいそうよろこびました。例の油じみた髪ゆいの道具なぞが置いてある炉ばたで、わたしのためになべで菜飯をたいてくれました。わたしがなすが好きだからと言って、皮のまま輪切りにしたやつをみそしるにしてくれました。その貧しい炉ばたで味わったそまつなお別れの食事は、わたしにとって一生忘れられないものです。

それからわたしは東京に出て、なすの季節というと数衛のつくってくれたみそしるをよく思い出しました。二度とわたしはあの味に比べられるものにはであいません。

七 不似合いなもの

およそ不似合いなもの、わたしの郷里の人、末木兵次郎さんのあだ名。うそが多くてずるく立ち回ることを、わたしの郷里のほうではごまをすると言いますが、だれのいたずらからか、この兵次郎さんには「ごま兵さん」というあだ名がついていました。そのくせ、兵次郎さんは村での正直者でした。おそらく、兵次郎さんは、そんないやなあだ名をつけられていても気にするような人ではなく、「ごま兵、ごま兵」と呼ばれれば呼ばれるほど、ますますうそのない人になって行ったのでしょう。