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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

一四 朝

めったにわたしを迎えたことのない人たちをびっくりさしてやりましょう、そしてみんなにどっさりごちそうしてやりましょう。

一四 朝

仙台には、わたしは一年しかいませんでした。その一年はわたしにとって、一生のうちの最も楽しい時の一つでした。わたしの迎えた朝のような時でした。しかし、これはただの朝でもありません。そのことを皆さんにお話ししましょう。

わたしは皆さんの前に一つのたとえ話を持ち出しますよ。ここに一人の学校生徒があるとしますよ。春先というものはだれでも眠いものですが、その学校生徒もちょうど春先のような眠いさかりの年ごろで、朝早くにわとりが鳴き出しても、なかなか目がさめません。一番どりはもとよりのこと、三番どりの声がするころになっても、まだ生徒は眠がって、夢を見ていました。こんなににわとりの鳴くのも知らないでいるくらいですから、寝ぼけまなこに太陽を望みましても、ほとほとその笑顔を仰いだこともなくて月日を送っていたのです。ただ朝になれば東の空から出て晩には西の空に沈んで行くような、そんな赤いしょんぼりした日輪しか知りませんでした。太陽はその生徒から離れて行って、おもしろくもおかしくもない顔つきのものとしか目に映りませんでした。