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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
第八章 十二の話
一 読書の声
ような気ばかりしていました。第一、いなか教師の身では、読みたい書物もそうたやすくは手にはいりません。わたしは義塾の試験休みとか、養蚕休みとかにわずかの暇を見つけ、書物をさがしによく東京へ出かけて、持ち帰ったもので貧しい自分の書だなをかざりました。それとてかぎりのあることでした。そこでわたしは都にあるお友だちばかりうらやまずに、もっと正しく物を見ることを学びたいと思い立ち、それにはまず手近なところから始めようと思い立ちました。よく見れば、馬場裏から学校へ通う道ばたの雑草までが、石がきの間なぞのかくれたところにいい本をひろげて、このわたしを待っていてくれたのです。
そんなわけで、三年ほどの約束で来たわたしの前には、別の世界がひらけて行きました。ほんとに読もうとさえ思えば書物はわたしの行く先にありました。野にも川原にもありました。とうとう、七年も小諸にしんぼうして、となりのおばさんからも、生徒の父兄からも、学校の小使からも、麦畑に出て働いているお百姓からも物を学びました。わたしは教師として行き、生徒として帰りました。
第八章 十二の話
一 読書の声
ある日、東京本郷の西片町へんを歩いていますと、ふとある家からへい越しにもれてくる読書の声がわたしの耳にはいりました。