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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

九 耳のいい人

九 耳のいい人

仙台へ来て弱ったことは、ことばのなまりの多いことでした。何か土地の人から話しかけられても、世間に交際の広い男や女の話に通じないようなことはまずありませんでしたが、おばあさんどうしが語り合うことばなぞは、てんで聞き取れないくらいでした。わたしは東北学院へ来て学んでいる生徒の作文の中にも、何ほどその地方ことばのなまりを見つけたか知れません。

仙台のような都会ですらこのとおりですから、まして荒浜のあたりに住む人たちの言葉には土地のなまりも濃い。ある年、あの漁村に悪い病がはやって、それを調べるために内務省から役人や医者の出張したことがあるそうです。ところが、荒浜の漁師たちの言うことは、それらの役人や医者はおろか、仙台から付いて行った人にすらよく聞き取れなかったそうです。

ここに一人、耳のいい人がありました。

その人を仙台から連れて来て、はじめて用が足りたということでした。そんな漁師ことばの通弁をだれがつとめたかと言いますに、その耳のいい人はもはや三十年近くも仙台地方に住む外国の宣教師でした。ローマ旧教をひろめに日本へ渡って来た人で、ジャッキという名前のフランス人でした。