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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

二 チョンまげ

いなかに、もう一度自分の身を置いたように思いました。その窓の近くには、小諸の士族屋敷の一部の草屋根も見え、ところどころには柳のこずえの薄く青みがかったのもあり、ちょうどわたしが出かけて行ったころはおそい春がようやく浅間のふもとに近づいてきた時分でした。たとえ学舎は小さくとも、わたしはほかの先生がたとともに働くことを楽しく考えました。

小諸本町の裏手に馬場裏というところがあります。そこにある古い士族屋敷で草屋根の家がわたしの借りうけた住まいです。わたしの小諸時代は七年もその草屋根の下で続いたのです。

でも、わたしは小諸に来て山を望んだ朝から、あの白い雪の残った遠い山々、浅間、牙歯のような山つづき、影の多い谷々、高いがけくずれのあと、それから淡い煙のような山のいただきの雲の群れ、すべてそれらのものが朝の光を帯びてわたしの目に映った時から、なんとなくわたしのなかにはまったく新規なものが始まったように思ったのです。

二 チョンまげ

小諸の荒町には、髪を昔風のチョンまげに結んだ鍛冶屋さんが、たった一人残っていました。明治の御代となってから、そういう風俗はすたれ、みんな簡易で軽便な散髪に移りましたから、これは小諸へんに見られる最後のチョンまげでありましたろう。