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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

九 涼しそうなもの

あのつるから切りたての新しい色つやのを、どかりとそこへ置いた時は、だれでも子供のようにうれしい。新しい秋のみのりですからね。ほかの家と同じように、姉のところでも青い夕顔を輪切りにして、かんぴょうに造るしたくをしました。まずその輪切りにしたやつをまないたの上にのせます。薄くけずった二本の竹がまないたの上に平行に打ちつけてあります。額つきもまだ若々しい薬方の若者なぞが、細身のほうちょうを片手に、腕まくりで、そのまないたの前にすわったところは絵にしても見たいほどさわやかなものです。ほうちょうが順に動いて、輪切りにされた夕顔が二本の竹の間をすべって行きますと、そこから生のままのかんぴょうが生まれてきます。どうかすると五六尺あまりもあるような長い長いやつも生まれてきます。それを日にあて風にかわかしてかんぴょうに造りあげるのです。田園のふぜいはそんなところにも深いものがありました。

九 涼しそうなもの

涼しそうなもの、方壺山人のはすの葉のかさ。

方壺山人は名字を渡辺といい、徳川の時代に木曾福島の名君とうたわれた山村良由公が詩文の師匠と頼んだ人で、「菁莪館」(良由公の建てた学校)の学問を興したことにもあずかって力のあったらしい人ですが、この人が大きなはすの葉を頭にかぶった図がわたしの見つけた書物の中に残っていました。