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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
一一 書物は野にも川原にも
ほかの樹木が黄に枯れがれとした中に、まだ緑のかげをとどめたところも、あるにはあります。それは水の流れを旅人に教えるので、そこには雑木がおい茂って、泉に添うて枝をたれて、深く根を浸しているのです。村々の農夫も秋の労働に追われるかして、その高原に馬を放すものはすくない時でもありました。八つが岳山脈の南のすそに住む山梨の農夫ばかりは、冬季のまぐさに乏しいので、遠くそこまで馬を引いて来て草を刈り集めているのでした。
さすがに野辺山が原へ行って遠く千曲川の源まで望んできたかわずの言うことはくわしい。一方のかわずはしきりに耳を傾けて、川上の話を聞いていましたが、やがてこう言い出しました。
「なるほど、お前さんの話を聞いてみると、自分の見学のせまかったことがわかりました。わたしは川下のことしか知らなかった。これがそもそも争いのもとでした。これからわたしもひとつ川上を心がけます。そのかわり、お前さんも川下へ来て見てください。どうして川下も、なかなかようござんすぜ。」
一一 書物は野にも川原にも
最初わたしは三年ほどの約束で、いなか教師として出かけてきたものですが、小諸は仙台のような土地がらともちがい、教育の機関というものがそうそろっていませんし、語るに友もすくないようなところですから、何かしら東京のほうにいるお友だちにおくれる