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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
一〇 木像拝見
このジャッキ先生、ギリシア語の知識もあって、学問のある坊さんでしたが、年百年じゅう、同じような黒いぼうしをかぶり、黒い服を着て、なりにもふりにもかまわずに荒浜のほうまで宗旨をひろめに行くうちに、そんな漁師ことばの通弁がつとまるほど、いい耳を持つようになったのです。
一〇 木像拝見
瑞巌寺は東北地方に名高い、松島にある古い大きな寺で、そこに安置してある伊達政宗の木像も世に知られています。ちょうどわたしの甥が東京から仙台の宿へたずねてきたものですから、二人で松島見物を兼ねて、木像拝見と出かけました。あいにく、その木像はるすだというのですが、しかし声はするのです。そこでわたしが尋ねてみましたら、こんな返事でした。
「いや、遠いところをよくたずねてきてくれました。木像はわたしですがきょうはだれにも会えません。わたしもこんなうすぐらいところにいるものですから、このお寺の小僧が見物人を案内して来ては、わたしの鼻の先へろうそくの火を突きつけるので、だいじな鼻を焦がしてしまった。あの小僧も気がきかない。もうすこしでわたしは大やけどをするところでしたよ。これでもわたしは人間らしいものの尊いところを持っているつもりです。