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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
四 呉くみ子さん
敵弾を受けた軍艦の一部をあとで修繕するおりに切り取ったものでした。海戦の記念として、ある海軍将校から一ふりの短刀をその鉄板で作ってくれと頼まれたとの話もその時に出ました。おそらく来助老人のように、一生を刀の道にささげつくして、この世を歩めば歩むほど明るいところへ出て行った刀鍛冶もまれでしょう。
四 呉くみ子さん
呉という家はいい学者を出しました。
同じ家に生まれた兄弟の人たちがそろいもそろって学問の道に達したということも、実にゆかしい話ではありませんか。
呉くみ子さんも、そういう家に生まれた人でした。この人は明治女学校という学校で習字を教えながら、舎監を兼ねていて、多くの生徒からおかあさんのように慕われた婦人でした。あの歴史のある学校もおしまいの時分には、先生方は一人去り、二人去りするようになったのです。その中で学校の盛んな時も、衰えた時も、すこしも変らずに、いつでも同じように人を教えて倦まなかったのは呉くみ子さんでした。ああいう人の生涯は目立たないものですから、わりかた、世間に知られませんし、その人の事跡も多く伝わりません。しかし、わたしは呉くみ子さんのような、男も及ばないほど守る力に長けた婦人のあったことを知っています。