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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
一〇 里ことば
少年のわたしはわが家のじいやに連れられ、村から小一里ばかり山道を歩いて、そこに祭ってある山の神の小さなほこらの前へおもちをそなえに行ったことを覚えています。
まあそんな山里ですが、信濃の国の中でも一番西のはずれにあたる峠の上の位置にあるものですから、一方にながめがひらけていまして、美濃の平野の空を望むこともできるようなところです。お天気のいい日には遠くかすかに近江の伊吹山まで見えるといいます。わたしはあの恵那山のふもとの村に母を置いて考えることを何よりの心のよろこびとし、いつまでも母がたっしゃで、ふるさとの人たちを相手に働いてくれるようにと、それのみを願っていました。
一〇 里ことば
ふるさとのお話につけ、木曾という地名の意味をここに書きつけましょう。曾とは麻のことです。麻の皮をはいだのを木曾、畑から切って来たのを生曾、日に乾したのを乾し曾、花ばかりなのを男曾、実のなるのを女曾、男曾の中でも長くて大きいのを重曾なぞと言います。これは里ことば――すなわち、地方のことばですが、木曾の木とは、生糸の生、生そばの生と同じで、生のままの麻のことを言った古いことばであろうということです。