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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

一〇 かわずの見学

枝からもぎたてのしずくのしたたるばかりのようなくだものを味わったことがありますか。

守山というところの桃畑は、わたしたちの義塾の木村先生がお百姓にすすめて、桃の苗木を移し植えさせたことからはじまったと聞きます。

先生は佐久地方の地味が水蜜桃に適すると気づいた最初の人でしたろう。その守山のお百姓から桃を食べにこいと言われて、わたしも小諸から出かけて行ったことがあります。桃畑の小屋の中で味わった青い桃のうまさは忘れられません。あれは大きなおかあさんのような土のふところに育ち、豊かな種の持ち主で、どっさりわたしたちにごちそうしてくれるようなやつでした。

一〇 かわずの見学

千曲川の川下を見てきたかわずと、川上を見てきたかわずとが小諸で落ち合いました。そしてたがいに見てきた地方のことで言い争いました。

一方のかわずに言わせると、千曲川は犀川といっしょになってからがいい、つまり川中島から下のほうがいいと言いますし、一方のかわずはまた、臼田あたりから上のほうがいいと言いまして、たがいにそのことを争ったのです。どうあっても千曲川は川下がいいと一方が言えば、いや、川上がいいと一方が言い張りました。