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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
古い墓地が山の上にありまして、そこから瀬戸神社への道もつづいています。墓地の近くには、古い言い伝えの残った一株の松の木もあります。後醍醐天皇さまの第二の皇子がむかし旅をしていらしって、遠く父の帝をおしたい申したのも、その松の木かげからだと言われております。
青いあい色で美しい日本海のながめはこの山の上にひらけているのです。何百万貫からのいわしの漁のあったことなぞをラジオでよく放送するのもこの海です。近くに後の島、かなたに鏡が崎も望まれて、いさましい漁師たちの船が青い潮に乗って行くのも、その島や崎の間でしょう。瀬戸の漁師たちは毎朝このへんまで潮を見に来て、かならず瀬戸神社へもお参りし、海の幸をお祈りして行きます。海の幸とは古いことばのようですが、漁に獲物のあることを海の幸とも言いますし、海には海のさいわいがあることをもそう言うのです。おそらく、漁師たちは、どうか海の荒れませんように、どっさりおさかなのとれますように、いい海のみやげを船に積んでおうちに帰れますように、と言ってお祈りするのでしょう。
「おまえたちはそうしてわたしを見に来るのか、それとも海を見に来るのか。