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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
六 髪ゆいの親子
そういうわたしの家では藍、塩、お砂糖、そのほか紙なぞのぜひとも入用な品をよそから買うだけで、たいがいの物は家で手造りにしました。お茶も家で造りましたし、糸も家で染めました。わたしの着る物は羽織でも帯でも母の織ってくれたもの、わたしのはくぞうりはじいやの造ってくれたものでした。そういう家にわたしも生まれたものですから、子供の時分から物を手造りにすることの楽しみを覚えました。
六 髪ゆいの親子
数衛という髪ゆい親子のことは、わたしの『ふるさと』の中にも書いておきましたが、わたしにとっては忘れられない人たちですから、重複をいとわずここにも書きつけてみたいと思います。
わたしの家に生まれたものには乳母を一人ずつつけて養うならわしになっていましたから、両親がわたしのために乳母として雇い入れてくれたのはお雛という女でした。わたしはお雛のせなかにいてその鼻歌をきいたり、眠くなればそのせなかに寝たりして、だんだん大きくなって行ったようなものです。このお雛の父親の名が数衛で、村でもきたないので評判な髪ゆいでした。昔は男でも髪をゆいましたから、わたしの少年のころにはまだ数衛のような髪ゆいがあったのです。