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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
第三章 二つの雷さまその他
一 二つの雷さま
「おかあさん。」
とわたしが車の上で呼びかけた声を聞いて、今さらのように母は心におどろいたということでした。
久しぶりで会うことのできた母はだいぶ年とっては見えましたが、しかしまだまだ元気でした。寒い地方の人らしく黒いトンビなぞを着てきまして、国を出る朝はそこいらはもう霜でまっ白、そんな話がありました。つやつやとしてりんごのように赤いそのほっぺたも変らずにありました。
この母は、わたしが長いことお世話になった礼を言いに、吉村さんの家へもたずねて来まして、このご恩を忘れてはならないと言って、それをおじさんたちにも話し、わたしにも話しました。七八年前のわたしはまだはなをたらしていた少年であった、そんな話がおじさんの口から出たのも、その時でした。
吉村のおばさんもおもしろい人です。母が帰ったあとになって、こんなことをわたしに言いました。
「お前さんのように、そんなにえんりょしているやつがあるものかね。もっとおかあさんの首っ玉にかじりついてやればいいのに。」
第三章 二つの雷さまその他
一 二つの雷さま
少年期から青年期のころにかけて、わたしは「かみなり」とあだ名のついた人を二人ほど知るようになりました。