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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
日清戦争が来てみると、来助老人のような人の腕の役に立つ時がもう一度来たのです。ちょうどわたしは、東京湯島のほうにいて、郷里から上京した母とともに小さな家を借りている時でした。ある日、来助老人がその湯島の家へたずねて来てくれまして、
「自分も、七十の年になって、また世に出ましたよ。」
こんな話が出ました。どんなにわたしもこの再会をよろこびましたろう。
その時、老人は名刺がわりにと言って、自分で打った小刀を持ってきてくれましたが、そんな小刀一本にも小さなことをおろそかにしない老人の気象があらわれていました。
上京後の来助老人が仕事場は芝の高輪にできましたから、今度はわたしのほうからたずねて行ったことがあります。一人のお弟子を養子にして、いい相槌ができましたとわたしに言ってみせるのも、そこでした。当時の刀鍛冶としても、老人は一番年長者だそうでしたが、いい刀を打つものがだんだんなくなりますから、今のうちに学校を造っておきたい、そして刀鍛冶を育てたいとの話があったのも、そこでした。老人はまた、一枚の厚い鉄板をわたしの前に取り出してきて見せました。それは日清戦争のかたみでした。