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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

二 かわずの声

時計までスピード時代だなんて急ぎだしてごらんなさい。静かに立っているものがあればこそ、ほかのものの速いかおそいかもはっきりわかりますよ。わたしはお前さんの生まれたころも、今も、同じように時をお知らせしています。わたしは急ぎもしなければ、休みもしません。わたしの針が急ぎすぎればあとへもどしますし、おそすぎれば前へ進めます。生徒さん、どんなスピード時代が来ても、時計はこれでいいと思いますよ。」

二 かわずの声

声を出すのは楽しいものであるのに、かわずなかまは土から出てきたばかりで、まだ歌一つうたえませんでした。みんなたんぼのわきや小川のほとりで低い小さな声で鳴いていました。

一ぴきのかわずがありまして、どうかしてもっと声を出したいと思いましたが、それが思うように出てきません。なかまのものは、と見回しますと、いずれも低い小さな声で鳴いていまして、中には穴を出たばかりのように、まだ土をしょったままのかわずもありました。もっとも、これはかわずなかまにかぎりません。鳥ですらやぶのかげなぞにかくれていて、どっちを向いて見ても、声を出すものは少なく、ただただ冷たい風がヒュウ、ヒュウ、空をうなって通るばかり。