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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
一〇 『小公子』の訳者
うやうやしく手をついておじぎをすること、客の名を奥へ通すこと、案内すること、茶を運ぶこと、客のはきものを直しておくこと、それから庭先をはききよめることなぞ、長い月日の間にはわたしも慣れまして、それを自分のつとめと思ったばかりでなく、玄関にすわることをいっそ楽しく思うようにもなりました。わたしはよくそのせまい小さなへやで好きな本を読みました。今になってみますと、わたしの勉強はほかのお友だちとも違いまして、こんな玄関番が土台になったかと思います。というのは、いろいろな用事でおじさんのところへたずねてくる男や女の客を迎えたり送ったりするうちに、いくらかずつでも、さまざまな世の中を見る目があいて行ったばかりでなく、わたしたちとはまったく教育の受け方の違った少年や青年、東京の下町あたりに年季づとめする町家の若者、それから地方出の奉公人などが気風ののみこめるようになったのも、こんな玄関番のおかげだからでした。
一〇 『小公子』の訳者
『小公子』の訳者として知られた若松賤子さんがなくなりまして、そのなきがらが墓地のほうに送られた日のことでした。
この人は本名をお嘉志さんといい、横浜フエリス女学校を早く卒業して、巌本さんにかたづいた人ですが、その学才と人がらとはむかしを知っているものに惜しまれたばかりでなく、お嘉志さんのだんな