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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

二 松島

ここは東北の都会といわれるくらいのところで、朝晩の空気からして東京あたりとはだいぶ違います。ここには静かな光線がさしていまして、学問でもしようというものには町全体が北向きの勉強部屋の窓のようなところです。ここは阿武隈川へもそう遠くなく、一里ばかり行けば太平洋の岸へも出られて、歩き回る場所に事を欠きません。まあ、仙台へ着いたその晩から、思わずわたしはホッとしましたよ。それまで歩きづめに歩いてほんとうの休息ということも知らなかったようなわたしは、ようやくのことで胸一ぱいによい空気を吸うことのできる宮城野のふところへ飛びこんだようなものでした。

仙台へ来た当座、しばらくわたしは同じ東北学院へ教えに通う図画の教師で布施さんという人の家に置いてもらいましたが、その家は広瀬川のほとりにありました。遠く光るよいの明星が川向こうの空によく見えました。母からも東京のお友だちからも離れて行って、旅の空にそんな一つの星のすがたを見つけたのもうれしく思いました。

二 松島

「わしが国さで見せたいものは」という歌にもあるとおり、東北の人はなかなかお国じまんですから、何よりもまず松島を見せたいと布施さんが言いまして、学校のお休みの日にわたしを案内してくれました。