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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

どうでしょう、こんな朝寝坊にも早く目のさめる時が来ましたよ。気がついてみると、にわとりは暗いうちから起きて生徒を呼んでいました。

そのうちに、太陽が遠く東の空に登ってきました。それは地平線を離れて飛びあがるような勢いのものでした。毎晩沈んで行く日輪とも思えないほどの生き生きとした美しいものでした。生徒はびっくりして、生まれて初めてそんな太陽が自分の目に映ってきたことを知ったのです。にわとりはにわとりで、もう一つおまけにというふうに、新しい朝の誕生を告げていたのです。

わたしが仙台で送った一年は、ちょうどこの学校生徒がにわとりの鳴き声を聞きつけた時のようなものでした。朝になりますと、だんだん空が明けはなれて行くように、過ぎ去ったことはわたしから離れて行きました。そこいらは明るくなってきます。物は生き返ってきます。草木も新しい色を帯びてきます。何を見ても目がさめるようでした。

ほんとに、仙台の一年はよかった。わたしのようなものにも、そんな朝が来ました。その一年の間ほど本のよく読めた時もありません。どうしてこんなことをお話しするかと言いますに、自分のよろこびとしたことを皆さんにも分けたいと思うからです。