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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

そればかりでなく、自分らの切り開いて出て行こうとする道にはお手本というものも少なかったし、足もとも暗かったし、これから先、自分のなかから生まれてくるものを守り育てて行くには、かなりの勇気と忍耐とがいりました。

どうかして、もっと自分を新しくしたい。そう思っているところへ小諸義塾の話がありまして、いなか教師として出かけてきてはどうかとの木村先生からの手紙をも受け取ったのです。

小諸からは関君という人がわざわざ東京まで出て来てくれまして、木村先生はじめ町の人たちのすすめを伝えてくれました。関君は明治学院の出身で、わたしとは古いなじみの間がらでした。当時、京都のほうにも教師の口はありましたが、わたしはいなかに退いてもっと勉強したいと心を決めましたから、報酬もすくなく骨もおれる小諸のほうの学校を選びました。そんなわけで、翌年の四月には浅間のふもとをさして、いなか教師として出かけました。

新規、新規、見るもの聞くものわたしには新規なことばかり。第一、自分のつとめに通う小諸義塾までが、まだようやく形の整いかけたばかりのような新規な学校でした。しかし、その義塾の二階の教室から、遠く蓼科の山つづきの見える窓のところへ行って、そこから信州南佐久の奥のほうの高原地なぞを望むたびに、わたしはようやくのことで静かに勉強のできる