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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

だが、茶漬屋の座敷の灯は、堀の水に影を映して、さすが夜明かし商売を誇っている。

三人は、座しきをとって、隅田堤のまだ明けきらない水と空をながめた。

「いまのは、ほととぎすの声だろう」

「君はいま駒形あたり――ですか」

「源吉。味なことを、知ってるな」

そこへ、女中が、お風呂をといってくる。

左右太が、さきに入り、次に源吉が上がって来た頃、空が、美しく映え出した。

「お次さんも、さっぱりしておいで」

かの女を立たせてから、女中をよび、ちょっと、おかみに顔をかしてくれといった。

巴屋の送りをもって来た客なので、お内儀はすぐあいさつに来た。

「おい、おめえは、ちょっと、外していてくれ」

左右太は、源吉も遠ざけてから――

「おかみさん、うしろをお閉め」

「え。……なんでござんすか」

「ふすまも、障子も、閉めたがいい。此方はかまわぬが、奉公人も多勢の様子。おまえのためだ」

左右太は、ふくさに包んで持っていた十手を、おかみの前においた。

おかみは、顔いろを失った。立って、うしろを閉めるのがやっとだった。

「驚かしてすまないな。だが、おまえを召捕に来たのじゃない。十手は、奉行所の者だという証だけにおいたのだ。