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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

「おれを、気狂いあつかいする気だな。ウム、分った、おれのことばを、みな、狂人のたわ言だと、調書をごまかし、世間をうまく、飾ろうというんだろう。くそでもくらえ、おれが獄門なら、てめえも獄門へ抱いてゆく。おれが磔なら、てめえも磔柱までつれてゆく。――もともと、てめえと俺とは、切ッても切れねえはずの縁だ。それを、自分ひとり、いい子になりゃあがッて、畜生、ふざけるな」

昂奮のあまり、ほんとに、額を牢格子へぶつけたらしい。タラ――と血の糸が、かれの片目を通って、あごに垂れた。と、亀次郎は、うーむと、うめいて、また昏倒した。

「それっ」と、牢番は、すぐ中へはいって、水を与え、薬をのませた。気がつくと、亀次郎はまた吠える。また、牢格子へ、噛みついてくる。

そこへ、義平太の迎えに行った市川楽翁が、薬籠を持ってやって来た。すぐ、亀次郎の容体を診る。亀次郎は、いつもの獄医とちがうせいか、それとも、実はやはり生命の愛執がさせるのか、急に、子どものように素直になって、脈を診させ、胸も背も、足のうらまで、診察させた。

「たいそう、お丈夫だの。このぶんなら、心配なし。ただ、風邪ぎみにすぎん。