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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「うむ。よかろう」

図面を九右衛門に返し、実地に対しても、自信をふかめると、秀吉は、ふたたび馬にのって、

「帰るぞ」

と、幕僚たちの上に呼ばわってから、工事奉行、吉田六郎太夫、千原九右衛門のふたりへ云った。

「ここの山際から、彼方、石井山の蛙ヶ鼻の下まで、筑前が馬を走らすゆえ、その馬蹄のあとを、築堤の縄とりとせい。よろしいか」

「しばらくお待ちを」

ふたりは、附近の民家へ、人夫をはしらせ、何ごとか早急にいいつけ終ってから、秀吉に再度答えた。

「よろしゅうございまする」

「よいか。さらば、こう引け」

と秀吉は、まっすぐに東へ馬を向けて駈けだした。

門前――福崎――原古才――その辺までは竿を置いたように直線を描き、原古才から蛙ヶ鼻までは幾ぶん弓なりに内ぶところを拡げてゆく。

九右衛門と六郎太夫は、騎馬の幕僚たちと、秀吉とのあいだを馬で追いながら、時々、何か白い粉を落して行った。麦の粉か小米の粉であろう。白い線が地にのこる。

振り向くと、その後を辿ってもう幾人かの人夫が、築堤線に杭を打っていた。

秀吉は、蛙ヶ鼻へ立って、

「これでよかろう」

左右へいった。

いま引いて来た一線を堤と見、これに七川の水を入れると、ちょうど半開きになった蓮の葉形の巨大なる湖ができあがる。