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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
こないだっから、スーッとした空気が吸ってみたくてたまらなかったので、雨を冒して出かけたところ、たしかに海岸の空気は吸いましたがびしょ濡れで。でも面白うございました。私ったらね、手紙を書くつもりでね、この紙だの切手を貼った封筒だのをもって行ったのは殊勝でしょう。ところが、余り豪雨の中を強行してフーとなって書くどころではなかった次第です。平塚はつまらないのよ。今度から一緒に出て、国府津へ行っていて、寿江子もそっちへかえって一晩とまる位のことをしようということになりました。せいぜい一月に一度でしょうね。
平塚は市です。そして、そこの旅館は皆協定して、料理を配給にしているのよ。その本もとがその養生館といううちです。面白いわねえ、養生館というような名のつけかた。母の家の従兄の一人に、体をよわくしてアメリカからかえって来て小田原に宿屋をひらいて、そこで暮した人がありました。それが、やっぱり養生館よ。私が十四五ぐらいのときよく冬そこへちょいと行きました。きたない小さい家だったけれど、今どうなっているかしら。白秋が小田原にいた時分とかに、その世話でお嫁さんが来たとか云々で、却って何となし行きません。