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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

六月二十九日

飽きることのない夏の日がそこにあるのです。

海にもおよがれるよろこびというものはあるのでしょうねえ。波が体にあたってとびちるとき、体の下をすべっておされてゆくとき波は小さい笑いのように燦くし、独特のざわめきを立てるのですもの。自分のなかで縦横におよがれるとき、海は自分が海であるのがどんなにうれしいでしょう。

まとめる仕事、本当に、仕上げるからには大いに奮発いたしましょう、私はこの本は今日の生活からかけている生きる歓びをつよく、つよく脈うたせたいと思います。それが私のモティーヴです。明智をもつこと、そこにある美しさ。つよく意志的であること、それの可能であるために必要な科学性と感性との統一。バラバラにほぐされているものを互の正しい関係で自身のうちに発見させてゆけたら、それはやっぱりいいことでしょう、肉体のよろこびと精神のよろこびがどんなに一致したものであるかということにしろ、或人にとっては啓示かもしれないのですもの。では明日ね。

六月二十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

六月二十九日  第三十一信

面白いのね、二十五日午後のお手紙、けさよ。