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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

さて、先週の火曜からの一週間は、私にとって輾転反側の一週間でした。そして、いろいろと発見をいたしました。

物をかくひとの生活の空気というものは、学生なら学生が、勉強してゆくのとは全くちがったものであることも明瞭になりました。体の毛穴があるように私たちには精神の毛穴があるのね。所謂勉強は毛穴がふさがってもやれるのね。書いてゆくこと、何かつくり出してゆくことはこの毛穴のうちと外との流通、呼吸がちゃんとしないと迚も溌溂とゆかないものであることが生理的にわかって、林町では、私の毛穴はぬりごめよ。精神のそよぎというべきものがどこにもない一家の空気、どう生きて行こうという勢のはずみのどこにもない家、それは全く他人であって、私が二階がりをしているのなら其きりでしょうが、そうでないのですもの、本当に苦しい焦だたしい工合でした。私は何とか落付こうと努力したから猶更ね。

私たちの生活というものは、もうちゃんとあるのよ。それは、そうどこにでもはめこんで、はめ合わせのつくような鈍い角のものではなくなって来ているのね。私たちの芸術的な生活の感覚は、酸素がたっぷりいる種類のものなのだと見えます。