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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

きゅうりにつめて煮てでもたべて頂きましょう、お母さんお好きかしら。

どうもきょうの天気は困りね、可哀そうに。広島で三人はどうしているでしょう。今一降り大きく降って、うちは二色の音楽よ、ピーン、トン、ピーン、とん。これは御仏壇の前の深いバケツに雨が洩る音。もう一ヵ所どこかでトン、トンと落ちているけれど、そっちの方はいやに陰性で、茶の間の私のところからはどこか見当もつきません。小さかった頃うちに硝子戸がなくて、雨が降ると雨戸をしめて、いくらか間をすかして、そのすかした間から吹きこむ雨で縁側がぬれると、私たち子供は面白がってすべって歩いたものです。うちの母は雷が猛烈にきらいで、どういうわけだったのでしょう、考えてみれば滑稽だけれどひどく雷が鳴ると子供を三人自分の膝の前へかためて坐らせて、頭の上から黒いゴム布をかぶせて、息もつかないようにしていました。随分暑苦しくて、何だかその方が雷よりこわい夕立めいた物々しさでした。地震部屋というのもありました。これはいつか書いたかしら。廊下のはじにいきなり一枚戸をあければ出られるような一間半に三四尺のトタン屋根のつき出し小舎があって、そこに毛布、ビスケット、ローソク、衣類なんかがいつもおいてあったこと。