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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

いざというとき一先ずそこへとび出して、それから逃げようというわけだったのね。それを使うほどの大地震はなくて、やがて子供たちはそこを雨の日の遊び場にしました。そして震災のときはもう夙にそんなものなくなっていて、倉が立っていました。西村の祖母は安政の大地震を知っているのよ。祖父は厠にいて内で身じたくをなおし乍ら、母上はどうしたどうしたとよんでいたということです。堀田の殿様が家の下じきになって、何とかして地震の下からほった(掘った、堀田)殿様という落首が出来たりしたそうです。昔の災難は今からきくと何となし単純で、直接法で、それっきりというところがあるわね。もうこれで紙がなくなりました。思っていたよりずっと手紙書いてしまったもんだから(この紙は貴重品故そちらにしかつかわないのよ。こんな細かい字で、こんなにあとからあとからひとりでに書く手紙なんて、ユリの通信範囲には他にありようないわけですから)もうかえらなけりゃね、だから。ここはポストが駅で不便です、何しろ島田の町を縦断する大旅行(!)ですから。

今小ぶりの間にお風呂たきつけに出たら珍しいものを縁の下で見つけました、うちのだったのかしら、茶色のところへ白で宮本酒店と焼いた徳利が一つころがっています、何年ああやってころがっていたのかしら。