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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

雨の音をききながらお湯に入っていてあっちのうちの風呂場思い出し、夢中のような心持でお湯に入ったことや、ブッテルブロードのことや、こまごまイクラが丸く赤く光っていた様子まで見え、ちょこんとした浴衣の花模様など、大変大変ゆたかな晩でした。

そして、床に入りながら思ったのよ。今年は思いもかけないお歳暮だのお年玉だのを私は頂いたのだけれど、私はあなたに格別いいものもあげられない、と。私だって、どんなにかボンボンをあげたいでしょう。ボンヌボンヌを。私の御秘蔵のボンヌは決してありふれてはいないのだけれど。残念ね。「化粧」というソネット一篇ぐらいしかあげてないのですもの。私も、今年は今年のおくりものを見つけたい思いは切です。でも、いい思いつきがなくて。

そう云えば、本つきましたろうか。高山のも。高山の表紙もわるくないわ、落付いていて。しかし『第四日曜』と『進路』と並べてみると、さっぱりしすぎのようなところもなくはないでしょう? 検印の判のことちっともおっしゃらないことね。私は一つ一つあれを捺してゆくときそこに声をきくような気持でいるのですけれど。いいでしょう? あれをこしらえたばかりのとき一昨年だったか、手紙の中におしてお目にかけたの、覚えていらっしゃるかしら。