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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
いろいろ近頃になって考えるに、じいさんは晩年志をとげざる気分の鬱積で過したらしいが、自分が初めから青年時代から抱いていた開発事業への情熱も、まさしく来るべき明治の波が、底からその胸底に響いていたからこそだとは思わず、個人的に自己の卓見という風にだけ考えていたのね。だからあの仕事全体を、当時の全体につなげて考えられず、閥のひどい官僚間の生活が与えた苦しみを、すべて感情にうけて苦しんだのですね。じいさんの頃、生れが米沢で長州でなかったということには絶対の差があったのでしょうから。私たちにさえ、もしあのじいさんが長州出であったら必ず大臣になっていた人だと云う人があります。じいさんは生涯そんな妙な「であったらば」ということに煩わされたのね、可哀そうに。その煩いのために、自分の輪廓を却って歴史の中ではちぢめてしまっているように思えます。なかなかそうしてみると人は、自分の仕事を思い切って歴史のなかに放り出しておく度胸はもてないものと見えますね。歴史と個人との見かた、個人の生きかたを、そういうリアルな姿でつかめる人は少いわけでしょう。つまりは歴史の見かたの問題だから。