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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
一つは都会の中流の歴史。一つは地方の老舗の歴史。大いに私も精進してしかるべしです。本当に私は特にあとの方が書いてみたいと思います。お母さんのいろいろのお話も大変面白いわ。「雑沓」ではじまるのにはその二つの流れを交えて書こうとしていたわけですが、それは無理です。そんな小さいものではないわけですから。いつかいい機会に私は室積へすこし暮したり、野原のこともっとしらべたり、いろいろ自由にあのあたりを跋渉してノートこしらえておきとうございます。天気晴朗な日、それらの小説がつつましくしかし充実して登場することはわるい気持もいたしますまい。
自分の幅、重さ、みんなその中にぶちこんで活かせるような題材でないと、私はいつも評論より何かくい足りない小説ばかり書いていなくてはならないでしょう。云ってみれば、小さき説の底がぬけているのでしょう。だから思い切って踏みぬくべきなのよ、ね。ジャーナリズムの二三十枚小説の底はぬいていて、自分の足で歩いていいのです。――小説についても――自分の小説について思うことどっさりです。
(こんな紙、あやうくしみそうで字をつい軽くかきます)
八月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕