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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

。旅人は去りかねています。そして思わず心の願いをうたにうたうの。ああせめて、私の眼がたんのうするまで、と。

それからこんな対話風のソネットがあるわ。

あら、あなたは、どうしてそんなにいそいで行こうとなさるのでしょう。まだ日は高いわ。

私たちの影法師は、さっきから、まだ、

ほんのちょっと、

ホラ、あの樹の根元から少し動いたばかりなのに。

対手のひとは黙って、そういう娘をじっとみています。

顔を仰向け、眼に見入り、答を待っていた娘の心と体とを貫いて戦慄が走りました。娘にも急にわかったのよ、言葉の消えるときが来るのが。碧くてひろい大空は、そこに真昼の太陽をのせたまま、二人の上に墜ちて来ようとしていることが。

刹那を支えているひとの美しさ。

娘は叫びのように感じます、ああ自分は大地だということを。大地だというよろこびを。

いくらこんなに書き直したって駄目ね。

詩には響きもあるのですもの。その響は耳できかなければききようもないのですもの。詩の諧調が次第次第に高まるにつれて、律動の間から響いて来るひびき。

今そちらはどんな気候になりました? 何だか手とつま先とがつめたいようになって来たわ、こんなに、ね。