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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
わかるわねえ。心のそういう苦しみ、妻のいとしさのそういう苦しみが、お湯に入らなければ何ともしのぎかねるというところ、微妙なものがあるわ。光太郎さんはああいう人で、温泉に自分の肉体をまかせたけれど、ひとによれば、人間の女をたよるでしょう。生活の破れかた、破られなさ、そういうきわどいところね。岡本かの子に死なれた一平は酒ばかりのんで泣いていたらしいわ。
そういう体で経た経験があるのだから光太郎さんが美は弱いものでないという言葉にはこもっている力があるのは尤もです。私たちはその美感に支えられているのだもの。理屈一片にこの人間の心と体とが支えられるものですか。愛情というものだって、つまりはそこまでのぼる階ですもの。いつも思うのよ、人間の本当の美しさの感じが分ると、その人はそれ故に世俗的道義の典型になるところもあると。堅忍とか貞潔とか、石部金吉でなくて、しかもそれはその人にとって乱れがたい自然の統一となったりしてね。そういう美の感じが、代用品でも平気ですまされるというようになることはおそろしいことですね。「美について」は代用品でないでしょう、少くとも、著者が自覚のもてる範囲では。