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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
たまによくこんなことも思うのだけれども、さてとなるとやっぱり本をよむ、かく、ほかの用事で実現せず。実現しないところがいいのかもしれないわ、それが自然かもしれないわ、ね。
空想のなかによく浮ぶのはもう一つのこんな場面。簡単な私たちらしい餉台。そこのこっちに坐って御飯たべていらっしゃるの。こっちに坐って見ているの。そうしてみていると、そうやってものをたべていらっしゃるその様子ごと、自分がたべてしまいたくなってゆく心持が実にまざまざよ。まるで口のなかが美味しくなってゆくようよ。全くさぞさぞおいしいことでしょうね。万葉集にはいろんなひとの面白い歌があるけれど、その人をたべたいという表現はないわ。昔のひとは私ほどくいしんぼうではなかったのかしら。もしかしたら、そんなものに匹敵するほど美味しさのあるものなんかなかったのかもしれないわね、何しろ椎の葉に盛る式の食物だったのだから。食べてしまいたい程というのがもし近代の表現なら、そこに又柳田国男のよろこびそうな要素があるわけね。ではのちほど。
十一月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
十一月十二日 第五十信