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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
と鈴木権中主典を招いた。
「――旧仙台藩のご一門にあたる伊達どののご家老阿賀妻氏です、開拓の仕事については拙者の盟友です、覚えておきなさい――全く」と彼は初めて阿賀妻に向って話しだした、「これだから困りますよ、中央のものは現地の事情をわきまえず軽べつすることだけを知っておる、無能な、昔の幕吏そのままの役人が多すぎる――あ、俥が来た、あとで宿の方にお連れ申してくれ、じゃ」
彼は属官に合図した。そのものの耳うちに対して堀は即座に「よろしい――」と云った。
「君はこちら、阿賀妻どのをいろいろご案内申してくれ、ああ、ああ、まッ直ぐ宿に帰る、おや、おぬしはまだそこにいたのか」
権中主典鈴木隆助は充血した猪首をぶるッとふるわせた。
すッと力車が牽き出された。玄関の彼らの前で、翳った冷たい空気がきりきりと舞いあがって、まともに、横なぐりに吹きつけた。その短かい間を、彼らは黙ってたたずんでいた。そのとき、太った鈴木隆助の胸に阿賀妻謙の名が彫りきざまれたのである。疼くような羞かしめの感じを伴っていた。したがって、後日これを彼が憶いだすとき、ただ憶いだしたと云うだけでも腹立たしくなるような疵痕になった。