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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「実は、僕たち、云い出そうかどうしようかって、大分遠慮していたんだ。知っていらっしゃると思ったもんだから」
「そんなお前。――ほかのこととはちがいますよ」
ロンドン市内のどこかに小さい家の一軒も持っている中流階級の経済事情は益々きりつまって来ていて、ミセス・ステッソンのところが未亡人の家だからというだけでなく、市の中心からはなれたエスモンド街あたりには、まだガス燈をつかっている家が軒並だということだった。そう聞いて伸子は思いあたった。ロンドンのいろんな新聞に出ている貸室の広告には、いつも電燈と特別に説明がついていた。黒い絹服を上品に身につけて、泰造が立派な英語だとほめた言葉づかいのミセス・ステッソンが、淑女らしい権式で門限のことや日曜日の冷い料理のことを云いわたしながら、佐々たちが借りようとする室を見に二階へ行ったとき、その部屋にガスをつかっているということについては、ひとこともふれなかった。ミセス・ステッソンとすれば、ロンドンでは、そういうことは、借りての方からきくべきこととしているのだろう。ガス燈は、公然と、誰の目にも見えるように天井から下っているのであるから、と。