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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

画家としての磯崎恭介の努力と、自分をすててそれを扶けた須美子の骨折りとは、恭介の生涯の終点がここにあって見れば、旧いものがその極限で狂い咲きさせている新しさと云われるものに到達するまでに、使いつくされた恭介の短い生命だったと云える。

デュト街の磯崎の住居は、葬式の前日らしい人出入りだった。伸子が着いた時、区役所からの埋葬許可証のことで、昨日は見かけなかった二十二・三の若い人が、すれちがいに出直すところだった。

「ほんとに、みなさまのお世話になって――」

伸子が来るまでに、三時間ほどよこになったという須美子は、きのうからの黒い服で、自分で自分を支えようとするようにかたく両手を握りあわせて、客間の椅子にいた。

「あんまりみなさまが御心配下さいますから、横になって見ましたけれど、とても眠れなくて……」

低い、とりみだしたところのない須美子の声だった。

「少しは何かあがれて」

「ええ、ちょっと」

伸子がそこに来ているということは、葬式準備の事務的な用事のためには何の役に立つことでもなかった。伸子は、須美子の苦しい心の、折々の止り木としてそこにいるのだった。用事がすこし遠のくと須美子は、伸子のよこへ来て腰をおろした。