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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
つや子は、文法ばかりやかましくしつけられた尼僧女学校のフランス語で、洗濯という言葉や、やるという単語を四角四面にならべて、すばしっこいマダム・ルセールに、かえって、やるというひとことを、都合いいように解釈されてしまったらしかった。
「自分で行かなかったばちよ。――わたし流に、どうぞ、洗濯屋へ、ってでも云えばよかったかもしれない」
マダム・ルセールが特別ずるい女というのではなかった。何かよぶんな用事を云いつけたとき、多計代が心づけをわたしたりすると、彼女は、いかにも感謝にたえないように片膝をかがめて礼をのべた。マダム・ルセールのそういうとりなしは、言葉の通じない多計代の気分をとらえるのだった。
生活によって鋭くされているフランスの女の眼はしに、つや子は鈍重な少女のようにうつっているでもあろう。その娘と二人きりしかいない、しんとした午後、マダム・ルセールが、わたされたピンクのスリップをふし高な両手の間にたくしこむようにしながら、メルシ、メルシ一点ばりにひき下って行った情景を想像すると、伸子はおこる気もちもしなかった。
「マダム・ルセールも、きっとそのスリップが気にいったんでしょう。