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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

けれども、伸子としては、平気でなかった。赤い聯のかかった帳場の奥の小さい椅子にかけて談笑していた店のものが、入ってゆくこちらを見て、瞬間に表情がかわってゆく。そういうところで、自分のすきなものを、たべる――伸子は支那料理が非常にすきだったから、店の人々の間にある、一種の空気を押しきって、それを食べるということを、よけい動物的に感じるのだった。

しかしフランシーヌはもうその計画を話されているらしくて、

「ジャックがそろそろ帰る時間ですわ、ちょっと失礼いたします」

着がえするらしく、二階の部屋へあがって行った。

ベルネ一家の家政を見ているのは、細君の母親だった。その人にことわって、四人はソルボンヌ大学のそばの、横丁にある中華飯店へ行った。背のひょろりとしたジャックは今年十九歳だった。十七のとき、家に雇っていたおない年の娘を身もちにさせ、それが問題になって家出しようとしたジャックを、どうやら落付けて、店を手つだうようにしたのは蜂谷だった。

はじめてクラマールへ行って、ベルネの部屋を見たかえりの話だった。伸子は、

「それで、娘の方はどうなったのかしら」

ときいた。