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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

いたずらっぽい眼をして、伸子は明るい寝台の上に仰向いたまま素直に笑った。きらいでない、という線からはじまるひろくぼんやりしたこころもちの、どの地点に蜂谷良作はおかれるのだろう。伸子の感情に、恋のかげはちっともさしこんでいないのだった。自分の心が恋にとらわれていないことをはっきり知っている伸子は、おちついて、こまかい景色のあらわれはじめた感情の小道について、吟味をつづけた。その過程で無意識にあまやかされながら。

蜂谷良作が、細君にふれて話したのは、伸子をいやに感じさせることだった。蜂谷の細君と伸子とは互にあったことさえなくて、まるで別なものなのだし、蜂谷にとっても全く別な角度で存在しているもののはずだのに、細君と伸子とをおきならべ見てでもいるような比べかたで彼が話した。そのことは、伸子を傷つける。伸子にとって、蜂谷良作の細君であるという女の立場は、全然関心がないのだ。――

永い間大きい寝台の真中で仰向いていた伸子は、清潔なシーツの間で勢よく寝がえりをうって体をよこにした。あした、もしそんな折があったら、蜂谷良作にはっきりそう云おう。伸子はゆっくりと辿っていた考えに、しめくくりをつけた。