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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

この人たちには、誰にとっても家庭がないという状態が自然でないのだ。伸子はそう思った。日本の男のひとたちは、何と家庭になれているだろう。国際学生会館の人々は、蜂谷良作と似た三十五から四十歳の間の年ごろであり、どこか晴れやらぬ空といったところのある気分においても彼と似ている。

伸子の父の泰造がロンドンに留学していたのは、丁度いまここに集っている人々と同じ年ごろであり、五つだった伸子の下に小さい二人の男の子がいたという事情も似ていた。ここにいる人たちの、ふっきれない神経の複雑さが理解されるように感じたとき、伸子は、父親のロンドン生活の、いままでは見えなかった側面にふれたように思った。そこには、多計代ばかりでなく、多くの妻が嫉妬をもって想像したりするよりも、もっと人間らしい何かの飢渇があるのだ。そして、伸子は、年月はいつの間にかあのころ五つだった娘の自分が、そんな風にも考える女の年ごろになってパリに一人いることにおどろくのだった。

郊外からサン・ラザールの停車場まで帰って来たとき、蜂谷が伸子を誘った。

「思ったより早かったな。――ここからだとつい近くだから、野沢君のところへよって見ませんか」