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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
たしかに、ヴェルダンの一日、伸子は口数が少なかった。伸子の受けた感銘がそうさせたのだった。
「それは、わたしが感じたことは、言葉にすると、どれもこれもセンチメンタルみたいだったから……」
「ほかの連中がいなけりゃ、佐々さんはもっと自由だったにちがいなかったんだ。僕はそれが残念だというんだ」
伸子にものをいうひまを与えず、
「僕には、大体わからないんだ。伸子さんともあろうひとが、どうして、そんなにいつもセンチメンタルになることをおそれていなけりゃならないのか」
蜂谷の云いかたは腹をたてているように、圧しつけられた声だった。
「センチメンタルであるにしたって、それは感情の真実であり得る」
「それはそうね。――でも……感情の真実であっても、情熱の真実とはちがうことだってあるわ。感情と情熱とはちがうんだもの――感情を情熱といっしょくたにするのが、いやなの。――」
「僕にそんな区別はない」
「あら!――変だ」
云いかけた伸子の腕が並んでかけている蜂谷の手にとらえられた。
「――こんなひとが――もうじき行ってしまう」
体をしざらせようとして蜂谷の方へ向いた伸子の顔の上に、蜂谷の重い頭が急に落ちかかって来た。