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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ね、来て」
「だめ」
混乱して、かすれた伸子の声だった。
「どうして?」
「だって……ちがうんだもの」
「何が」
「――タワーリシチじゃないもの」
むっくり、蜂谷の上体が寝台で起きあがった。
「じゃ、タワーリシチなら、君にはどんな男でもいいわけか」
「どうしてそういうことになるのかしら……」
まだすっかり自分をとり戻していない伸子が、不自然にゆっくりした口調で反問した。
「だって――そういうわけでしょう」
「わたしはコロンタイストではないわ」
「僕は君にとってタワーリシチじゃないってわけなのか」
「それはそうじゃないの」
伸子の答えは抵抗しがたくものやわらかで、同時にはっきりしていた。伸子は急に自覚しはじめるのだった。自分でさえ思いがけずに云ったタワーリシチであるということと、そうでないということの区別を説明することは、何とむずかしいことだろうか。と蜂谷良作も予期しない瞬間に、感情の焦点を移されたようだった。彼は壁にもたれて立っている伸子をめずらしいものをしらべるように、眺めた。
「じゃ、吉見素子は、どうなんだ、佐々さんにとって。――彼女は、同志なのか」
しばらく考えていて、伸子は、答えた。