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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ことしから必要とされるようになった居住証明の書付。それは伸子がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)・ソヴェトのその係へ行って、つい先日、三ヵ月間の証明をもらって来てある。食糧の配給切符――それはルケアーノフの細君に二人分そっくり渡して伸子たちは賄つきで暮しているのだった。

素子が帰って来る。その踵を追うようにしてルケアーノフの細君がはいって来た。

「正餐をお出ししていいでしょうか」

「どうぞ」

伸子は、

「ね」

と、素子を見た。

「何かでしょう?」

いつも落付いて、皿を運んで来て、ときには、

「いかがです? お気に入りますか」

とテーブルのわきに立っていることもあるルケアーノフの細君は、正直で親切な主婦が、ざっと一年悶着なしに暮して来た下宿人に対して急におこった気まずさをかくしているときのかたくるしさで、振舞っているのだった。

「まあ、いいや。話があるなら聞こうじゃないか」

正餐がすんでからの十五分を待ちかねていたように、ドアがノックされた。

ルケアーノフは、食事の片づけられたあとの円テーブルに向って伸子が出しておいた椅子にかけた。椅子のなくなった伸子は、自分のベッドにかけた。