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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

なく感じたのだった。伸子たちはわざといそがず、一番あとから出口に向って歩いて行った。めいめいが、荷物の全部であるスーツ・ケースを一つずつ下げて。――

若い画家の磯崎恭介と妻の須美子とが、白い服を着せた子供を抱いて伸子たちを迎えに来ていた。その若い家族の光景は、伸子につよい感銘を与えた。小さい子供の白い柔かな服のふくらがりが、北停車場の煤煙のしみこんだ黒くて太い鉄柵のところで異様に真白く、花弁のように見えたばかりではなかった。小さい子供がほとんど若すぎるようにさえ見える父親の腕にだかれてステーションの出迎えに来ていることは、パリでの磯崎恭介夫妻の暮しぶりをそのままに語ることだった。同時に磯崎夫妻をそのように生活させているパリそのものの生活断面でもある。伸子は、何の躊躇の感情もなく、まだ三十にもなっていない、夫婦で絵の勉強をしている磯崎恭介夫妻のつましいみちびきによって自分たちの前にひらかれた厖大なパリの生活のわれめへふみこんだ。

磯崎夫妻がパリの倹約な生活の四年間でどこよりも知っているのはモンパルナスであり、そこに彼らの生活の熱情がかくされていた。