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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
を知りぬいているらしかった。彼は伸子たちの注文はいつも自分できいた。きょうは、うまい小海老をたべさせた。フラスコ型のガラス瓶に入れて来るおきまりのうすい赤い葡萄酒のかわりに、コップに一杯ずつの白葡萄酒を四人にすすめながら、
「いい味ですよ。素晴らしいです!」
何で伸子がそれを知っているのか自分でもわからないながらよく知っている一つの身ぶり――セ・ボン、と云いながら、さもかわゆいもののことをいうように三つの指さきでつまむような形をこしらえ、ちょいと肩と首をすくめる身ぶり――を添えて。
伸子と素子がとまっているホテルは、モンパルナス停車場の円屋根を望むところにあった。誰も、それがどんな人だったか知りもしないエドワード六世ホテルという名だった。
ベルリンから来た列車が、ほこりで醜くなった暗緑色の車体を北停車場の巨大なガラス天井の下でプラットフォームに横づけにしたとき、伸子は最後の車体のショックを体にうけながら胸にこみあげて来る漠然とした苦しさを感じた。パリの大さ。見知らない大都会の生活のつかみどころない複雑さ。北停車場の雰囲気が伸子をうった。ウィーンのようでなく、またベルリンのようでもなく、パリでは生活しようと思いこんで来た伸子は、それだけに、行く先も知らないで北停車場のプラットフォームへおりる自分たちを、たより