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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
柔かなココア色のソフトを粋にかぶって、淡い肉桂色の背広を着たスペイン人の男が、※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)レンチノ風の長いもみあげを見せびらかすように気取ってゆく。シュ、シュと特徴のある語尾を響かせながら早口に喋りつづけて二人のアメリカ婦人が通りすぎた。多彩な織るような人波にまじって、お仕着せのメッセンジャー・ボーイ。黒服に白前掛のブルターニュ風の婆さん。犬をつれてアイ・シャドウと口紅の濃い女。二人ともそっくりおそろいの白い毛皮をはすかいに肩にかけ、つばの深い帽子のかげから隈どられた眼でキャフェのテラスへながしめをくれながらしなやかな体をなおしなやかそうにねってゆく女づれ。やがて歩道の、テラスから遠い側を三人の尼さんが、黒い大きい服と糊のこわい白い塔のような頭巾を一列にそろえて足早にやって来る。キャフェのテラスでは、若い給仕たちが高くささげた大盆をたくみに肱であやつりながら、絶えず動いて、雑沓している客たちの前へ、盃を、コーヒーの茶碗をくばり、飲みもの代と一割の心づけをおいたまま行ってしまった客のテーブルに残っている受け皿から、器用に片手のひらへ心づけをあけてズボンのポケットにしまいこむ。