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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
須美子の、日本人ばなれのした輪廓の端正な若い顔の上を無言の苦しげなかげがすぎた。
「――でもこの節は、どこもですわ。マダムでさえこぼしますもの」
恭介たちの家の主婦は親切な寡婦で、二人の息子は郊外の工場へつとめているのだった。
数年このかたフランスはアメリカについで、ヨーロッパでは金保有量の最も多い国として、景気が安定し、ドイツのような失業はないし、ストライキもなかったのだそうだった。いまでも労働力は不足していて、ポーランドやベルギーから労働者をよんで来ているぐらいだけれども、労働賃銀が、暮しよいパリ時代のままだから、物価が世界のよその国なみにあがって来てしまうと、パリの市民の大部分は、ますます肉類ぬきの食物で生きてゆかなければならなくなって来ているのだった。
「ここでも、このごろは労働者の男や女が、賃銀値上げの要求を書いた札を立てて示威行進するようになりましたよ」
「そうお?」
伸子は、自分たちをあやしむように、
「どうしてだか、わたしたち、まだいっぺんもそういうデモンストラシオンに出会ったことがなくてよ」
と云った。
「そりゃそうでしょう」
おかしそうに恭介が笑った。