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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

保さんの東京高校というところは、たった一人の貧しい学生もいないほど金持の坊ちゃんぞろいの学校なの? もしそうだとすれば、こわいことだし、軽蔑すべきことだわ。そこで育っている学生たちは、自分たちだけに満足して、世の中にどっさり存在している不幸について、想像力をはたらかすことさえ知らないのでしょうか」

書いている自分の肱で、紅絹の針さしを床におとしてしまったのにも心づかないで、伸子はつづけた。

「保さんのこしらえて頂いた温室というのがいくらかかったかは知らないけれども、それは少くとも、貧しい高校生の一年分の月謝よりどっさり費用がかかっているでしょう。保さんはそのことを考えてみたでしょうか。そして、公平に云えば、それだけの金がないばかりに、保さんよりもっと才能もあり人類に役に立つ青年が泥まびれで働いているかもしれないということを考えてみたでしょうか。こういういろんなことを、保さんは考えてみて? 想像の力のない人間は、思いやりも同情もまして人間に対する愛などもてようもありません」

保に向ってかいているうちに、みんなが旺な食慾を発揮しながら、あてどなく時間と生活力を濫費している動坂の家の暮し全体が伸子にしんからいやに思われて来た。